【Vol.0】映画『ディア・ファミリー』を10倍おもしろく! 人工心臓製造・実験監修者に聞く、研究開発のリアル&映画制作の舞台裏

Vol.0:はじめまして、安久工機です

みなさんこんにちは。
有限会社安久工機(やすひさこうき)と申します。

突然ですがみなさん、2024年6月公開大泉洋さん主演の映画『ディア・ファミリー』はもうご覧になりましたか?

https://dear-family.toho.co.jp/

この度、私たち安久工機は本作の人工心臓製造・実験監修を務めさせていただきました。映画の重要なテーマである人工心臓のプロトタイプや実験装置など、至る所に当社が製作した物が登場しています。

映画『ディア・ファミリー』を10倍おもしろく! シリーズの他の記事へはこちらからどうぞ!

Vol.0:はじめまして、安久工機です
Vol.1:映画『ディア・ファミリー』監修のはじまり
Vol.2:あなたの知らない人工心臓の世界

 

安久工機のしごと

安久工機は東京都大田区下丸子というところにある、全員合わせても8名の小さな町工場です。

ディアファミリー 安久工機 作業現場

町工場とはいっても金属加工や樹脂加工を請け負ったり、あるいは何か特定の部品を製造したりというような、いわゆる”加工屋さん”や”部品屋さん”とは少し違います。

私たちの主な仕事は「機械設計」(加えて調達、製造)です。
中でも「原理試作」や「概念実証試作(PoC)」と言われる、研究開発の上流におけるゼロイチのメカ機構構想設計を得意としています。

ディア・ファミリー 安久工機 設計

世の中にはみなさんの想像を遥かに超える数の「世の中にないモノを作りたい人」が存在していて、研究者・製品開発者・事業開発者・ベンチャー企業・デザイナー・クリエイター・アーティストなどなど、数え始めればキリがありません。

そんな方々に寄り添い、どうやったらソレができるか、仕組みや製造方法を一緒に考え一緒に作ること。いわば、“アイデアをカタチにする”お手伝いをするのが私たち安久工機の仕事です。

ディア・ファミリー 安久工機 設計

 

安久工機と人工心臓

安久工機は1969年に先代の田中文夫が約十年間の町工場での職人修行の後に独立しここ大田区で創業しました。
(ちなみに、社名は先代の生まれ故郷である宮崎県都城市安久町に由来します)

ちょうどその頃、独立の話を聞きつけた先代の前職の元請先(株式会社北辰電機)元計測制御装置開発者で、当時早稲田大学理工学部助教授として教鞭を取っていた土屋喜一氏から「東京女子医科大学と一緒に人工心臓を開発するから手伝ってくれないか」と声がかかります。

工学と医学の研究者と学生だけが揃っても肝心の“モノ”は出来ません。

その頃から早速田中文夫は研究室に入り浸ったり、研究所の一部を間借りしたりして、設計のアドバイスや指導、部品の調達や加工、組み立てなどの仕事を請け負うようになりました。

ディア・ファミリー 安久工機 梅津先生
早稲田大学 梅津光生さん(左)と田中文夫(右)1975年頃

 

ディア・ファミリー 安久工機 学生製作支援
学生の製作支援の様子 1990年頃

この頃から安久工機は人工心臓の研究開発支援を通じて“モノづくりの現場の立場からアイデアをカタチにする”という、現在にも通じるスタイルが始まりました。

安久工機は研究者たちの良き相談者として“世界にないモノ”の実現に貢献していくこととなります。

 

世代を超えて続く人工心臓の研究

人工心臓の研究開発は数年で終わるプロジェクトではありません。
そこに課題を見出す研究者が存在する限り“完成”や“完了”はないのです。

1982年、安久工機が人工心臓開発に携わって12年が経過した頃、先代の息子、田中隆(現代表取締役)が大学の機械工学科を卒業し、国立循環器病センターの人工臓器部に研究補助員として務め始めます。

人工心臓の研究や設計、試作、実験装置(シミュレーター)の開発、機械実験や動物実験など、まさに映画に登場する研究スタッフの一員として開発に取り組みました。

ディア・ファミリー 安久工機 田中隆社長ディア・ファミリー 安久工機 田中隆社長

田中隆 国立循環器病センターにて 1982年頃

ディア・ファミリー 安久工機 血液循環シミュレータ量産型旋回渦流式人工心臓(SVポンプ)用モールド

 

その4年後、1986年、安久工機に入社し、本格的に”町工場の機械設計者”としてのキャリアがスタートします。

人工心臓関連試作はもちろん、「これもやってほしい」「こんなモノをつくりたい」という声に応えていく内に次第に“モノづくりの便利屋”と呼ばれるようになり、1万5千件を優に超える多種多様な試作開発案件に関わってきました。

今回、映画『ディア・ファミリー』の監修として関わるチャンスをいただけたのも、現実の人工心臓開発の最前線で培った知見と経験があったからだと思います。

人工心臓とは何なのか、当時の研究者達はどのようにしてそれを実現しようとしたのか、その現場にはどんな苦労があったのか。

それらを知れば、主人公の坪井宣政(大泉洋さん)の挑戦がいかに困難で勇気のいることであったか、より深く理解することができるかもしれません。

このコラムでは、まさに『ディア・ファミリー』の舞台であった1980年代、人工心臓開発の最前線で“町工場”の立場からモノづくりを支え、本作の人工心臓製造・実験監修を務めた弊社代表の田中隆にインタビューを敢行しました。

ディア・ファミリー 安久工機 田中隆社長

 

映画に登場する人工心臓の解説から撮影の舞台裏まで、『ディア・ファミリー』がきっと10倍面白くなる情報を数回に渡ってお届けします。

「あのセリフにはそんな意味があったのか!」
「あれはそういうことだったのか!」と、新鮮な驚きを感じていただけたら嬉しいです。

ぜひ、何度でも映画館に足を運んで見返してみてください。

※本コラムは映画『ディア・ファミリー』における安久工機独自の解説や考察を試みるものであり、公式な解説や見解ではありません。
また専門家による厳密な検証や考証は行なっておりませんのでご了承ください。
※このページの内容によって生じたいかなる損害も有限会社安久工機では責任を負いかねます。

次回:Vol.1:映画『ディア・ファミリー』監修のはじまり